2009年、まおちゃんのライブで初めて人前でボッサのスタイルで演奏したことをきっかけに僕は「ボサノヴァの人」と友人達に認識されるようになりました。
それまでは「どんな音楽をやるの?」と聞かれても勉強やスキルアップのための作曲であって、アーティストとして明確なジャンルを打ち出していたわけでもなく、ボサノヴァをいつかは自分のスタイルとしてやっていきたいと思ってはいてもそれはまだ表現できるほどのものではなく、「ポップスかなぁ」と答えることしかできませんでした。
Soichiroさんの帰国のための企画バンド「Breaking Up」の後に人前で演奏することのなかった僕の周りの友人達はPoelを除いてそれ以降に出会った人達ばかりで、まおちゃんのライブには「Hiroさんがギター弾くんだって?」「え?マジで?」などと友人達がどんな音楽をするんだろうと興味を持ってくれました。
話で聞くのと実際に演奏を見るのでは違いますからね。
そしてそこでボッサのスタイルで演奏したことで、「彼の音楽ってこうなんだね」と認識されるようになり、友人が僕を紹介するときも「ボサノヴァのHiroさんです」と言われるようになりました。
まだまだ中身や演奏力は伴っていませんが、いつかはそういうスタイルを打ち出して自分自身の音楽として認識してもらえるようになりたいと思っていたのが多少なりとも現実のものとなり始めました。
アメリカに渡ってから自分自身の音楽を模索した末に見つけたボサノヴァという音楽。
それをものにしようと作曲やフィーリングを勉強する日々。
ボッサのコード進行はジャズが深く関わっていると知りジャズのレッスンを受け、ナイロンガットギターの弾き方を学ぶために1年間クラシックギターやフラメンコのレッスン(ブラジル音楽を教えている人を見つけられなかったもので)も受けました。
長い長い道のりでしたが、気がついたら僕はボサノヴァの人と言われるようになっていました。
嬉しい反面、「下手なことはできない」「もっときちんとした演奏ができるようになっていい演奏だねって言われるようにならないと」「もっとボッサに磨きをかけないと」と名実ともに揃った演奏力を身につけていく必要性を感じるようになりました。
同時に、ボッサのスタイルで曲をどんどん作って公開したり、機会があれば人前で演奏していったりすることを考え始めるようになりました。
それがRiocatoとして活動を始める1年前の状況でした。
いつかはコンピューターで音楽をと夢見て本を読み漁っていた頃、気になっていたソフトにLogicがありました。
2009年の時点ですでにLogicはAppleに買収されていて、Garage Bandからデータを取り込んで高度な編集ができるMacのプロ用目玉ソフトの一つになっていました。
当時はLogic8の頃で、そろそろ9が出るかなという時期でしたがプロ用のソフトだけあって簡単に手が出る値段ではありませんでした。
もちろん他のソフトに比べたら安くはなっていたのですが、まだまだ自分には手が出せない価格でした。
そんなある日、Logic7を中古で手に入れることができました。
ずいぶんと安い値段で手に入れることができたのですが、それもそのはず、それはアカデミック版で8にアップグレードできないものだったんです。
今でこそLogicはGarageBandの上位ソフトとして見た目も使い方も感覚的に使えるように改善されていますが、Logic7の頃はまだAppleもソフトを消化しきれていないようで、分厚いマニュアルとまるでWindowsマシーンを使っているかのような複雑でシステマチックな操作感が相まって、とても使いにくくどれだけ勉強が必要なんだと途方にくれるようなソフトでした。
それでもマニュアルを読んで色々と勉強してみたのですが、とてもじゃないですが週6勤務の自分には先が見えるような状況ではありませんでした。
かといって最新版のGarage Bandではグラフィックが大きく強化された影響でMacBookのスペックが限界を感じ始めていて、その割にはそれほどのクオリティのものでもないというもどかしさを抱えていました。
過去のモデルとはいえ、Logic7はプロ用のソフトだけあって安定感があり、グラフィックがそれほどでもない分だけ余計なメモリも取られずに済んでいてMacBookでもなんとか実用に耐えられる状態でした。
欠点は、できることが多すぎで何をどうやったらいいのか分からないというもどかしさとの闘いでしょうか…。
そんなある日、僕がデモ曲「Spiritual Liquor」を作るきっかけとなったHipHop系の友人から連絡が来て、彼にトラックを書いてあげることになりました。
彼はずいぶん昔に日本に帰国していて、HipHop系のクラブシーンで活動していたり、オリジナルの動画をネットに上げてアクセスを稼いでいたりと、リアルとネットの世界を上手につなげて活動していました。
色々なアーティストとコラボしてオリジナルアルバムを作ってネットでも販売していたのには驚きました。
そんなプロとしての活動をしている友人にトラックを作るのですから、今までのようなデモ音源レベルでは話になりません。
彼が使う使わないは別として、今の自分ができる最高のトラックを作り、それが実用に値するものかどうか判断してもらうことにしました。
プロに送るものですからGarage Bandでは心もとないので分厚いマニュアルと格闘しながらLogic7でのトラック作りに励みました。
HipHopの事は自分には分かりませんので、自分が慣れ親しんだスタイルで彼がRapできそうなトラックを作ることにしました。
自分自身の音楽スタイルとしてボサノヴァが定着しつつあった頃だったので、サンバのトラックを作ってみました。
ただのサンバというよりは、遊び心ある彼のキャラクターを生かすようにちょっと変な音を入れたり、音楽として聴き応えがあるように後半に行くに従ってフレーズがどんどん絡んでくるように盛り上げたりと工夫をしてみました。
結局のところ、彼に送るトラックではあるのですが、その時点で自分が自分自身のスタイルとしてイメージしていたものを形にしていく作業になりました。
ちょっと違うことといえばコード進行がシンプルなことぐらいです。
完成した音源を送ったんですが、その音源が採用された様子はなく、彼が活動の場を移したことなどもあってまた疎遠になってしまいました。
そんな訳で、これはボツになってしまったようです。
まぁ、彼もサンバのリズムにRapを絡めるのに苦労したようでそのまま後回しになり、曲を作るペースが早かったり交友関係が広かったりと常にアクティブな状態なので、トラックの存在もすっかり忘れてしまったようです。
「Spiritual Liquor」の時と同様に採用はされませんでしたが、自分にとって大きな勉強となるトラック制作となりました。
人目を見ることがないままのトラックですが、せっかくなのでここでサンプル音源としてアップしてみようと思います。
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